高次脳機能障害 運転希望者に病院協力
教習所と連携、適否探る
脳の損傷により、時には日常活動に支障が出る「高次脳機能障害」。退院後の生活再建に必要な自動車の運転を控えなければならない患者も多い。患者支援を目指し、病院や自動車教習所などが連携し、運転の適否を探る取り組みが進んでいる。
岡山県玉野市で会社を経営する田中浩一さん(仮名)(60)宅の、食卓に張ってあった「運転9か条」が今年初め、2年ぶりに外された。
田中さんは2007年、脳こうそくで倒れ、「高次脳機能障害」と診断された。9か条を作成したのは、入院先の岡山旭東病院(岡山市)でリハビリを担当した作業療法士、酒井英顕さん(29)。退院後、「再びハンドルを握りたい」と、自動車教習所や県の運転免許センターに通い、運転適性検査や実技指導を受ける田中さんに同行。そこで受けた助言などを参考に、子供が通る道はスピードを控える、自分中心の運転をしない――など、田中さんの症状に合わせて注意事項をまとめた。
家族が同乗しながら、少しずつ運転の機会を増やしてきたが、一人で運転しても大丈夫かなと、家族が思えるようになってきたため、9か条からの卒業にこぎつけた。田中さんは、「運転には自信があったが、適性検査の結果や教習所の指導で、より注意が必要だと感じた。運転ができない生活は考えられなかったし、仕事をすることがリハビリにもなる」と振り返る。
岡山旭東病院では、入院患者のうち7割が自宅復帰し、そのうち8割が再び運転することを考えている。野間博光リハビリテーション課長は、「高次脳機能障害があっても、歩けたり運動機能に問題がないと、周りからはなかなか病状を理解してもらえないことが多い。特に復職と運転再開に力を入れている」と話す。11人いる作業療法士のうち3人を運転担当にし、患者家族、運転免許センターとも連携する仕組みを作り、試行を続けている。
酒井さんは「病気の後に運転できるかどうか、患者も家族も不安に思っている。運転を再開するにしても断念するにしても、自分がどういう状況にあるかを客観的に調べてもらった上で、最後は患者・家族が判断できるように情報提供するのが仕事です」と話す。
高次脳機能障害と診断されても、運転免許更新の際に明確な基準があるわけではないが、県の自動車運転免許センターでは年20件前後、田中さんに類似した相談を受け付けている。県警運転免許課の池田浩己主幹は、「運転適性検査の結果からだけでは適否は判断できない。まずは相談者らがどうしたいのかの判断をした上で、相談にきてほしい」と話している。
運転機能を判定するため、昭和大学東病院(東京都品川区)では、患者の頭にセンサーを付け、脳血流を測定する機械を使っている。医師や作業療法士らが、複数の検査結果を踏まえた注意点などを助言する。
「運転と認知機能研究会」世話人代表で、昭和大の三村將・准教授(精神医学)は「病気によって運転にどんな影響が出るか異なり、病院での検査はあくまで運転が大丈夫かどうかの目安。安全性に問題のある患者は運転を再開する前に、自動車教習所などで実車で評価をするのが望ましい」と話している。